孟子(もうし)は、古代中国で活躍した諸子百家の一人ですが、論語で有名な「孔子の正当な後継者」と言われている人物です。
かなり有名な思想家であり偉人だと言えますが、孟子の学説には2つの特徴があって、1つ目が「性善説」、2つ目が「王道政治」となります。
この辺りについては後々触れていきますが、孟子の考え方は「リーダーが身につけるべき思考術」と言われているので、ビジネスパーソンはぜひご覧ください!
孟子(もうし)の名言集まとめ
水は信に東西を分かつなきも、上下を分かつなからんや。人の性の善なるは、猶お水の下きに就くがごとし。人に善ならざるものあるなく、水に下らざるものあるなし。
訳)確かに水は東へも西へも流れていく。だが高い方に流れていくだろうか。人間の本性は善である。それは水が低い方に流れていくようなもの。低い方に流れていかない水はないように、善でない人間もいない。
性善説は孟子が主張している最も重要な考え方の一つです。
人間はもともと「仁」「義」「礼」「智」などの徳を持っていますが、これらをしっかり使わなければ、人間は欲望に振り回されて人生を終えてしまいます。
逆にこれをしっかり使えれば、素晴らしい人生を生きられるそうです。
そのために孟子は「絶え間なく修養を重ねて、資質に磨きをかけるべきだ」と語っています。
惻隠の心は、仁の端なり。羞悪の心は、義の端なり。辞譲の心は、礼の端なり。是非の心は、智の端なり。
訳)人を憐れむ心は、仁の芽生えである。悪を恥じる心は、義の芽生えである。人に譲る心は、礼の芽生えである。是非を見分ける心は、智の芽生えである。
儒教では「仁」「義」「礼」「智」の4徳を重視しています。
- 「仁」:思いやりの心
- 「義」:人として行うべき正しい道
- 「礼」:社会生活を円滑にする規範
- 「智」:深い洞察ができる資質
これらを磨き上げるためには、その芽生え(きっかけ)を知る必要があるそうです。
人の学ばずして能くする所のものは、それ良能なり。慮らずして知る所のものは、それ良知なり。
訳)教えられなくても善を行う力が「良能」である。考えなくても善を理解する力が「良知」である。
人間にはもともと素晴らしい道徳性が付与されているそうですが、それを孟子は「良知良能」と呼んでいます。
しかしこの恵まれた才能も、自分が「活かそう」としなければ、結局は宝の持ち腐れになってしまうそうです。
天爵(てんしゃく)なるものあり。人爵(じんしゃく)なるものあり。
訳)爵位には、天から授かった「天爵」と人から授かった「人爵」がある。
天爵は「仁」「義」「忠」「信」など、人間が生まれつき身に付けている”徳”のことを指します。
そして人爵は、公、卿、大夫などの高い地位を指しています。
この言葉で孟子が伝えたかったのは「昔の人は徳を修めることを目的として修養していたが、現代人は初めから高い地位を手に入れることを目的として、そのための手段としての”徳”を身につけようとしている」ということです。
かなり昔の名言ですが、現代でも通用する名言ですよね。
目的と手段が逆にならないように注意しましょう!
閻然(えんぜん)として世に媚ぶる者は、これ郷原(きょうげん)なり。
訳)自分の内面を隠してひたすら世間に媚びるのは「郷原」の徒である。
郷原とは、自分を曲げて世間に迎合する人間のことを指しています。
このような人は上辺だけを着飾るので、いつまで経っても肝心の徳が身につかないそうです。
己を枉ぐる者にして、未だ能く人を直くする者はあらざるなり。
訳)自分が曲がったことをして人を正した例は、いまだかつてなかった。
この言葉が伝えたいのは「人を正そうとするなら、まず自分を直せ」ということです。
これはリーダーを目指す人の心得として覚えておきましょう!
天下の善士を友とするを以って、未だ足らずとなすや、また古の人を尚論す。
訳)天下の優れた人物を友として、それでもなお十分でないと感じたならば、歴史をさかのぼって古人を友とするがよい。
これはつまり「歴史に学べ」ということです。
読書は古人の知識を習得できる貴重なツールです。
一般的に「名著」と呼ばれている本は必ず読んでおきましょう!
君子は終身の憂いあるも、一朝の患いなきなり。
訳)君子には生涯を通じての悩みはあっても、外から降りかかってくる災いに一喜一憂することはない。
孟子の言う「終身の憂い」は、簡単に言えば”向上心”のことです。
具体的には、「歴史上の偉人と比べて自分はまだまだ未熟なので、もっと修養しなければいけない」という生涯を通じた悩みのことです。
このように大きなビジョンを掲げていれば、一朝一夕の小さな悩みに振り回されることがないそうです。
自ら反みて縮(なお)からずんば、褐寛博(かつかんばく)と雖(いえど)も、吾惴(われおそ)れざらんや。自ら反みて縮くんば、千万人と雖も、吾住かん。
訳)自分を反省してみてやましいことがあれば、地位の低い相手に対してもひるんでしまう。反省してみて正しいと確信できれば、相手が1000万人であろうと立ち向かっていく。
これはリーダーを目指す人に伝えたい名言ですよね。
自分の中に確固たる信念がなければ、どうしても軸がブレてしまいます。
リーダーには「自分の進んでいる方向は絶対に正しい」という信念が必要だと思います。
我善く吾が浩然の気を養う。
訳)私は何事も恐れず、どんな事態になっても動じない精神力を身につけている。
「浩然の気」とは、限りなく広大で、天地に充満し、生命や活力の源になる気のことです。
つまり概念的には「世の中に存在する善」のようなものです。
絶対的な正義であれば、自信を持って実行できますよね。
孟子は、正しいことをしていれば「浩然の気」が自ずと得られると語っています。
尽く書を信ずれば、則ち書なきに如かず。
訳)書経に書かれている全てを信じるならば、書経などないほうが良い。
これは書かれていることを鵜呑みにするリスクについて語った名言です。
もちろん書かれているものに関わらず、人から聞いたもの、自分で経験していないものを鵜呑みにするのはリスクがあります。
中には偽りの情報もあるので、自らの責任で真贋判定するべきだと思います。
已むべからざるにおいて已むる者は、已まざる所なし。厚くする所の者において薄くするは、薄くせざる所なし。その進むこと鋭き者は、その退くこと速やかなり。
訳)やめてはならない時にやめる人は、何をやっても中途半端である。念を入れてやらなければならない時に手を抜く人は、何をやってもいい加減だ。せっかちに進む人は、退くのもまた早い。
これは仕事で成果を出すための”コツ”とも言える名言だと思います。
退くタイミングを見定めるのは難しいですが、基本的にはじっくり長期的に取り組むのが正解だと思います。
そうでなければ、得られるものが少なくなってしまうからです。
命に非ざるなし。その正を順受すべし。この故に命を知る者は、巌しょうの下に立たず。
訳)人間の一生は天命が司っている。天命は甘んじて受け入れなければならない。天命を自覚している人間は、崩れ落ちそうな塀の側には近寄らないものである。
「天命」とは天の意思です。
天命に対して無自覚な人間は、「君子(リーダー)としての資格にかけている」と孟子は語っています。
憂患に生き、安楽に死す。
訳)心配や悩みがあるからこそ生き残ることができる。安楽な生活に浸っていたのでは破滅を免れない。
なんとなく「逆じゃないか?」と感じるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
悩みや心配事がある時には、謙虚さが芽生えて、慎重に生きることができます。
そこから学ぶこともできるはずです。
しかし一方で、安楽な生活をしていると、その生活には特に目的がなく、漫然とした一生を送ってしまいます。
心配や悩み事は自分を成長させてくれる糧なのだと理解しましょう!
為さざるなり。能わざるには非ざるなり。
訳)仕事ができないのは、しようとする気がないからである。もともとできないわけではないのだ。
これはとても勇気をくれる名言ですよね。
「人間には能力差がある」と思い込むと、勝手に自分の限界値を設定してしまい、自分の能力を抑制するハメになります。
腹をくくってやる気さえ出せば、誰だって偉業を成し遂げることができるはずです。
勇気をくれる名言は下の記事をご覧ください。
生もまた我が欲する所なれど、欲する所生より甚だしきものあり。故に苟(いやしく)も得るを為さざるなり。
訳)私だって命は惜しい。しかし命より大切なものがある。だから、その大切なものを捨ててまで生きようとは思わない。
孟子にとって命より大切なものは「義」だそうです。
- 「義」:人として行うべき正しい道
義を念頭に置いて行動できる人が「賢人」なのだと孟子は語っています。
自ら暴う者は、与に言うあるべからざるなり。自ら棄つる者は、与に為すあるべからざるなり。
訳)自暴の者とは、共に語り合うことはできない。自棄の者とは共に仕事をすることはできない。
この名言が「自暴自棄」という四字熟語の由来になりました。
元々は「口を開けば礼や義を批判する=自暴」で、「何をするにしても仁や義を守ろうとしない=自棄」という意味だったのですが、現代ではもう少し広い意味で解釈されています。
君子に三楽あり、而して天下に王たるは与り存せず。父母倶に存し、兄弟故なきは一の楽しみなり。仰いで天に愧じず、俯して人にはじざるは、二の楽しみなり。天下の英才を得てこれを教育するは、三の楽しみなり。
訳)君子には3つの楽しみがある。天下の王者となることは、それとは関係がない。1つ目は父母が健在で兄弟も元気なこと。2つ目は天にも人にも恥じるような行いがないこと。3つ目は天下の英才を見出して教育することである。
とても人間味深い名言ですよね。
ビジネスパーソンはどうしても出世を目指してしまいますが、プライベートが充実してこそ仕事に集中できます。
そして仕事の中に楽しみを見つけることも大切だと思います。
この考え方はリーダーが身につけるべき金言となるでしょう。
為すことある者は、辟えば井を掘るが若し。井を掘ること九軔(きゅうじん)、而も泉に及ばざれば、猶お井を棄つとなすなり。
訳)仕事を成し遂げるのは、井戸を掘るのと同じようなもの。いくら深く掘り下げても、水脈に達しないうちにやめてしまったのでは、井戸を捨てたのも同然である。
発明家のトーマス・エジソンは「やり続ければ失敗することなどない」と語っています。
失敗する原因は「途中で諦めてしまうから」だと言われているので、エジソンの名言集もご覧ください。
天下を以って人に与うるは易く、天下の為に人を得るは難し。
訳)天下を人に譲るのはまだやさしい。天下を治めるのに値する人物を見い出すのが難しいのである。
後継者探しは一流経営者であるほど難しいと言われています。
ソフトバンクの孫正義や、ニデック(元・日本電産)の永守重信も後継者探しに大変苦労しているそうです。
2人の名言集は下の記事をご覧ください。
人の徳慧術知あるは、恒に疢疾(ちんしつ)に存す。
訳)人生を生きていく知恵は、逆境の中で身についていく。
「徳慧術知」は素晴らしい知恵や、優れた知謀という意味の言葉です。
逆境は自分を成長させてくれる糧となります。
逆境を楽しみたい人は、そのやり方をプロアスリートから学んでください。
仁は人の心なり、義は人の路なり。
訳)仁は人の心そのものであり、義は人の踏み行うべき道である。
孟子が特に重視していた徳は「仁」と「義」です。
「仁」とは思いやりの心、そして「義」とは正しい行いのことを指しています。
リーダーとして活躍したい人は、必ずこの2つを身につけなければいけないと語っています。
この辺りを深堀りしたいのであれば、孔子の考え方も知った方が良いと思います。
為さざるあり、而る後に以って為すあるべし。
訳)してはならないことをしない。そうであってこそ、なすべきことをやり遂げることができる。
とても短い言葉ですが、「義」について語った名言です。
「してはならないこと」とは「義」から踏み外すことです。
これは短い言葉なので、座右の銘にもぴったりだと思います。
座右の銘を探している人は、下の記事をご覧ください。
人のその言葉を易くするは、責めなきのみ。
訳)口が軽いのは、責任を自覚してないからである。
リーダーの発言は責任重大です。
発言する前に、ちゃんと言葉を選びましょう!
行ないて得ざるものあれば、皆反りてこれを己に求む。
訳)実行しても成果が上がらない時は、自分の努力がまだまだ足りなかったのだと反省する。
失敗を反省することはとても大切だと思います。
もちろん過去を引きずる必要はありませんが、その失敗から学べることがたくさんあるからです。
謙虚な姿勢で失敗から学びましょう!
まとめ
ここまで古代中国の賢人「孟子」の名言をご紹介してきました。
最後まで読んだ人は孟子の考え方が大枠理解できたと思うので、リーダーを目指す人はぜひ参考にしてください。
古代中国の思想家はとても優秀なので、他の諸子百家の名言集を見たい人は下の記事もご覧ください。