人主に三守有り。
訳)組織のリーダーには守るべき3つのことがある。
守るべき3つのことは以下の通りです。
- 組織に属するメンバーの意見を人に漏らさないこと。
- そのメンバーの利害はリーダー自身が握ること。
- メンバーの生殺与奪の権利を守ること。
リーダーには様々な情報が集まってくると思いますが、その出所を喋ってはいけません。
そして組織に属するメンバーに懲罰を与える時、周りの状況を考えるのではなく、ルールにのっとって決めなければいけません。
さらに組織の人事権を経営トップが握っていなければ、不正な異動や解雇、権力乱用が横行するので、それを防げなくなります。
ここに記載されている「生殺与奪の権利」というのは、ビッグモーター問題で話題になりましたよね。
実は「生殺与奪の権利」というのは韓非子にも記されている言葉なので、組織運営においてこの表現自体を使うことに違和感を感じることはありませんし、そもそもこの表現を使える人は知識人だと思います。
ただあの組織で問題だったのは、社長である人物が生殺与奪権を掌握しておらず、現場の幹部にそれを与えてしまったことです。
現場の幹部がルールを無視して、独断と偏見で賞罰を与えていたので、それによって権力乱用が起こり、韓非子が懸念していた事態に陥ったわけです。
ビッグモーターという組織も、韓非子が提唱する3つをしっかり守ってさえいれば、組織は安泰だったでしょう。
人主の過ちは、己に臣に任じながら、又必ず反って其の任せざる場所の者とこれに備うるに在り。
訳)トップとしての過ちは、すでに仕事を組織に属するメンバーに任せておきながら、また他方では必ず任せていないメンバーに監視させるところにある。
仕事を人に任せると心配になりがちですが、決して監視するような真似はやめましょう。
もし他メンバーに監視を依頼した場合、その人は張り切って過失ばかりを発見しようとします。
その報告を鵜呑みにしてしまうと、ますますリーダーは疑心暗鬼になって、せっかく上手くいっていたプロジェクトもご破算となってしまいます。
そうではなく、適切なルールに基づいてコントロールすれば良いだけなのです。
治を知らざる者は必ず曰わく、古えを変えること無かれ、常に易うることなかれと。
訳)リーダーシップのない者は言う、古いことを変えてはいけない、慣れたことを改めてはいけないと。
一刀両断しますが、変化を嫌うリーダーはナンセンスです。
ビジネス環境は常に変化しているので、それに合わせて柔軟に変化していきましょう!
明主の道は、必ず公私の分を明らかにして、法制を明らかにして、私恩を去る。
訳)リーダーは必ず公私の区別をはっきりさせて、公的なルールに乗っ取り、プライベートな感情を捨て去るべきである。
この名言からわかる通り、韓非は仕組みでカバーすることを推奨していた人物です。
感情論は「机上の空論」と一刀両断しているので、このあたりには人間味がありませんが、それでもビジネスを仕組み化したい人には理解されるかもしれません。
人を溺らすには、一飲にして止めば、則ち溺るる者無し。其の休むを以てなり。これに乗じて以てこれを沈むるに如かず。
訳)人を溺れさすのに水を一杯飲ませて止めたら、誰も溺れるものはいない。途中でやめるからだ。勢いに乗じて沈めてしまうのが一番である。
かなり極論に聞こえますが、この言葉が伝えたいのは「始めたら最後までやり抜く」ということです。
徹底的にやり抜くからこそ、学びがあるのだと思います。
安危は是非に在りて、強弱に在らず。存亡は虚実に在りて、衆寡に在らず。
訳)組織の安定と危険とは、是非の基準が守られているかどうかによるのであって、メンバーの強弱によって決まるものではない。組織の存亡はその力が充実しているかいないかであって、メンバーの人数の多さで決まるものではない。
「数は力なり」という言葉がありますが、韓非は「法(ルール)」がきちんと守られていなければ、いくら数が多くても「烏合の衆」になってしまうと語っています。
強い組織にするためには「言行一致」が重要ということです。
明主の表は見易し、故に役立つ。
訳)優れたリーダーの立てるビジョンは分かりやすい、だから目標達成しやすい。
ビジネスしていると「ビジョン」という言葉を耳にしますよね。
しかしこれを言語化できる人は少ないと思います。
ビジョンを分かりやすく言語化しているのが、ソフトバンク創業者の孫正義なので、孫社長の名言集もご覧ください。
明主は人民の苦しむところを除きて、人主の楽しむ所を立つ。上下の利、これより長なるは莫し。
訳)優れたリーダーは、組織に属するメンバーたちの苦しみを取り除いてやり、リーダー自身も働くことが楽しくなるようにすれば良い。組織における上下の利益が一致した時の組織に勝るものはない。
これはつまり「楽しく働ける職場を作る」ということです。
当たり前の話ですが、仕事が楽しくなれば生産性も向上しますよね。
それが結果を出すコツだと韓非は語っています。
禍福は道法により生じて、愛悪より出でず。
訳)禍を受けるか祝福を受けるかは原理原則に基づいたルールによって決まるのであり、リーダーの個人的な好き嫌いで決まるものではない。
韓非の主張は一貫していて、「感情論ではなくルールに基づいた組織運営をするべき」ということです。
これは何事においても「自分の行動による結果に責任を持つ」ことに繋がるので、各個人に当事者意識が芽生えるそうです。
国は君の車なり。勢いは君の馬なり。
訳)組織というものはトップにとっての車であり、権勢は馬のようなものだ。
立派な組織があっても、リーダーシップがなければ、その組織(車)を導くことができません。
ビジネスリーダーには「リーダーシップ」と「マネジメント」が求められるのです。
下君は己の能力を尽くし、中君は人の力を尽くし、上君は人の智を尽くす。
訳)レベルの低いトップは自分の能力を発揮して、レベル中程度のトップは組織に属するメンバーの力を発揮させて、優れたトップはメンバーの智恵まで引き出す。
経営者にも「一流、二流、三流」があるということです。
一流のプロフェッショナル達が残した名言集もご覧ください。
まとめ
ここまで韓非子の名言集をご紹介してきました。
韓非は”老荘思想”に強く影響されているので、しばしば老子の言葉を引用しています。
つまり韓非子を理解するためには、老荘思想も学ばなければいけないということです。
老荘思想について知らない人は、下の記事もご覧ください。