
西郷隆盛(さいごうたかもり)は、日本人であれば誰もが知っている幕末~明治初期にかけて活躍した偉人ですよね。
薩摩藩出身の政治家・軍人ですが、幼なじみには大久保利通がいたり、坂本龍馬や勝海舟と共に『江戸城の無血開城』を実現させたことでも有名です。
上野動物園には西郷隆盛像が立っていたり、たくさんの肖像画が残っていたりするのですが、それらはあくまでも想像に過ぎず、実際の顔は未だに分かっていません。
そのような謎のある人物なのですが、そんな西郷隆盛が残した書籍に『南洲翁遺訓(なんしゅうおういくん)』というものがあります。
この本を読めば西郷隆盛の考え方や精神論が理解できるので、今回は西郷隆盛の遺訓集をご紹介したいと思います。
西郷隆盛の名言集まとめ
政の大体は、文を興し、武を振ひ、農を励ますの三つに在り。
翻訳)政治の大要は教育や文化を盛んにすること、軍備を充実させること、及び勧農の3つである。
これは政治の基本について語った名言です。
西郷隆盛は農民主義思考だったので「農を励ます」と語ったのです。
小人の情を察し、其の長所を取り之れを小職に用る、其の材芸を尽さしむる也。
翻訳)小人の実情を理解して、その長所を生かして、それに見合った軽職に就かせ、その能力を発揮させるのが良い。
みんな優秀な人ばかりを欲しがりますが、そのような人材は2割しかいません。
それであれば「残りの8割を活用する方法について検討するべきだ」と西郷隆盛を語っています。
そのような小人たちにも各々長所があるので、それを活かせる役職に就かせるのが良い人事なのですが、絶対やってはいけないのが「小人を重職に就ける」ことです。
この判断だけは間違えないようにしましょう!
事は大小と無く、正道を踏み至誠を推し、一事の詐謀を用う可からず。
翻訳)どのようなことであっても、道理にかなった正しい道を歩み、真の心を貫き、人を騙すような手を使ってはならない。
これは西郷隆盛らしい誠実な名言ですよね。
汚い手を使うと後々トラブルを引き起こすので、それが巡り巡って、結局は自分が困るハメになるのです。
人智を開発するとは、愛国忠孝の心を開くなり。
翻訳)人間の知恵を開発するということは、国を愛して、君主に忠誠を尽くし、親孝行する心を開くことなのだ。
愛国忠孝は「忠君愛国(ちゅうくんあいこく)」と似ていますが、「親孝行」という部分が加わった温かみのある言葉です。
人情深かった西郷隆盛が選びそうなフレーズですよね。
正道を以て之れを行へば、目前には迂遠なる様なれども、先きに行けば成功は早きもの也。
翻訳)正しい道を歩めば、目には遠く見えても、先に行けばかえって早く成就するものだ。
これは小癪(こしゃく)な手段を使うより、「正々堂々とやった方が結果的に早い」ということです。
正道を進めば、周りからの信頼も集まるので一石二鳥だと西郷隆盛は語っています。
世人の唱ふる所、何が文明やら、何がやばいやらちとも分からぬぞ。
翻訳)人は文明だ野蛮だなどと口にするけれども、何が文明で何が野蛮なのかさっぱりわかっていない。
西郷隆盛は”文明”について「道理が広く行き渡っているのを褒め称える言葉」と定義しています。
つまり社会的ルールがきちんと整備され、それをみんなが守っている状態こそが”文明社会”だと言ったのです。
そのような視点に立った場合、もちろん奴隷制は文明的ではなく、暴力的な争いが起こる国も文明社会ではないことになります。
租税を薄くして民を裕にするは、即ち国力を養成する也。
翻訳)税負担を軽くして国民を豊かにすれば、国力も強くなるものである。
西郷隆盛は「国家財政が苦しくなったとしても、政府が我慢して、国民に重税をかける政策をするものではない」と語っています。
入るを量りて出るを制するの外更に他の術数無し。
翻訳)どれだけの歳入があるかを明確にして、その範囲内で歳出を計算しなければならない。
これは会計出納について語った名言です。
財務は国家の基盤となるものなので、西郷隆盛は「適当にやってはいけない」と語っています。
節義廉恥を失いて、国を維持するの道決して有らず。
翻訳)節操を守り、義理を重んじ、恥を知る心を持つこと。このような姿勢がないなら、国は維持できない。
家族や仲の良い友人関係でも、節操を守り、義理を重んじ、恥じる心を持つ、ということは必要ですよね。
国民も”人”なので、結局は同じということです。
万民の上に位する者、己れを慎み、品行を正くし、驕奢を戒め、節倹を勉め、職事に勤労して人民の標準となり、下民其の勤労を気の毒に思う様ならでは、政令は行はれ難し。
翻訳)国民の上に立つ政治家は、己を慎み、品行を正しくし、驕り高ぶることを戒め、無駄遣いをしないようにし、自らの職務に励んで国民の手本となり、国民の勤労を敬う気持ちがなければ、政治は行われにくい。
これは政治家だけでなく、経営者など「上に立つ人」はすべからく心得るべき金言だと思います。
同じくリーダーが知るべき教養には、中国の古典「貞観政要」という名著があります。
リーダーが知るべき帝王学が詰まった書物なので、ぜひその名言集もご覧ください。
正道を踏み国を以てたおるるの精神無くば、外国交際は全かる可からず。
翻訳)国のために、正しくて道理のあることをとことん実践して、あとは国とともに倒れても良いと思うほどの精神がなかったら、外国との交際はうまく運ばない。
西郷隆盛が生きた時代は、ペリー提督率いる黒船来航の時代なので、不平等条約を発端とした尊王攘夷運動も起こっていました。
なので、西郷隆盛も外国との付き合い方を模索していたようです。
自分を足れりとせざるより、下下の言も聴き入るるもの也。
翻訳)主君は自分が完全無欠だと思っていないからこそ、民衆の言葉にも耳を傾けることができる。
この言葉伝えたいのは、「トップは謙虚な気持ちを持つべき」ということですね。
自分のことを”完全無欠”だと思っていると、他人の注意を素直に聞き入れることができず、部下からの諫言も出なくなります。
それでは裸の王様になってしまうので注意しましょう!
道は天地自然の道なるゆえ、講学の道は敬天愛人を目的とし、身を修するに克己以て終始せよ。
翻訳)人が踏みを行うべき道は、天から与えられた道理であって、上に天があり下に地があるように、当たり前の道理であるから、学問の道は天を敬い人を愛するということを目的として、身を修め、常に己に克つことに努めなければならぬ。
西郷隆盛といえば「敬天愛人」ですよね。
「敬天愛人」は宗教(儒教)的な考え方がベースになっているそうですが、西郷隆盛が生きる上での道標になっていたようです。
儒教について知りたい人は下の記事をご覧ください。
学に志す者、規模を宏大にせずばある可からず。
翻訳)学問を志す者は、広く学ぶという心掛けが必要である。
様々な知識を蓄えることが、本当の成長につながっていくと西郷隆盛は語っています。
しかしその道はとても険しいので、「常に自分に克つ精神力が必要だ」とも語っています。
天は人も我も同一に愛し給ふゆえ、我を愛する心を以て人を愛する也。
翻訳)天は他人も私も区別なく愛されるのであるから、我々は自分を愛する心を持って他人をも愛することができなくてはならない。
これは「隣人愛」っぽい名言ですが、どうやら西郷隆盛は少なからずキリスト教の影響を受けていたようです。
人を相手にせず、天を相手にせよ。
翻訳)狭い人間世界にこだわるのではなく、広大無辺の天を相手にしなさい。
「日本を飛び出て、世界を相手にする」ことにとどまらず、もはや宇宙全体、その上の”天”を相手にするという発想はさすがだと思います。
西郷隆盛くらい広い視野で物事を見れば、きっと見える世界が変わるはずです。
己を愛することは善からぬことの第一也。
翻訳)自分を甘やかすことが、一番良くないことだ。
自分を甘やかせば、何事も成し遂げることができません。
西郷隆盛は「決して自分を甘やかす心を持ってはならない」と語っています。
過ちを改むるに、自ら過つたとさえ思ひ付かば、夫れにて善し。
翻訳)過ちを改めるには、自分が間違いを犯したと自覚すればそれでいいのだ。
反省すれば次回の改善につながります。
西郷隆盛は「過ちを犯したことにこだわる必要はない」と語っています。
道を行ふには、尊卑貴賤の差別無し。
翻訳)天から与えられた道を実践するのに、その人の地位が高いか低いか、また尊いか卑しいかなどといったことは全く関係がないことだ。
これは「何かを成し遂げたい」と思っている人の背中を押してくれる、とてもポジティブな名言だと思います。
必要なのは身分や肩書き、学歴などではなく、『挑戦する勇気』と『圧倒的な行動力』なのです。
人は第一の宝にして、己れ其の人に成るの心懸け肝要なり。
翻訳)適任者こそが第一の宝であって、自らがその適任者になろうとする心掛けが大事なのだ。
組織論において、人材は「人財」と表現されることがあります。
『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり』という武田信玄の言葉もありますよね。
それほど人は重要な要素だということです。
戦国武将の名言集は下の記事をご覧ください。
只菅ら道を行い道を楽しみ、若し困難に逢ふて之れを凌がんとならば、弥弥道を行い道を楽しむ可し。
翻訳)ひたすら道を行い道を楽しみ、もし困難や苦しいことに出会ったならば、ますますその道を実践して楽しむという心を持つがいい。
目の前の困難は、自分を成長させてくれる”糧”となります。
西郷隆盛のような心構えさえあれば、どんな困難でも楽しく感じますし、何事にも動揺せずに幸せを感じられるはずです。
命ちもいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕抹に困るもの也。
翻訳)命を惜しいと思わない、名誉などもいらない、官位も金もいらないという人物ほど、権力からみて、手に負えないものはない。
このような人物は生きる目的を持っておらず、基本的にネガティブ思考の人だと思います。
なので、もしこのような社員を雇ってしまった場合、まずはマインドセットをする必要があるので、精神教育から始めましょう!
人を推すに公平至誠を以てせよ。
翻訳)人に提言する時には、公平かつ誠実でなければならない。
中途半端な策略で人を言いくるめたとしても、その後トラブルになり得ます。
それよりも人の心をつかむには『公平・誠実』という方が結局は近道なのです。
体有りてこそ用は行はるるなり。
翻訳)本体(原理)があって初めてその働きがあるものだ。
これは物事の道理について語った名言です。
表面的な感覚で物事を進めるのではなく、きちんとしたロジック(原理)を組み立てて物事に当たらなければ「危なっかしくて見ていられない」と西郷隆盛は語っています。
それを分かりやすく表現したのが”武”についての表現です。
西郷隆盛は「武とは剣や矛のことではない。敵がどれほどのものかを測る知識である」と語っています。
なかなか奥深いですよね。
西郷隆盛は明治維新の偉人
ここまで西郷隆盛の名言集をご紹介してきました。
西郷隆盛は”徳”のある人物として知られており、とても誠実だったと聞いています。
なので人徳があり、良くも悪くも最後まで人のために尽力した人生だったようです。
日本が激動の時代だった「幕末」という時代に生きた人たちは、やはり生きる上での”心意気”が違うように感じます。
明治維新の頃に活躍した偉人たちの名言集も是非ご覧ください!