
中国古典である「韓非子(かんぴし)」をご存知でしょうか?
韓非子は「リーダーが必ず読むべき名著」と言われていますが、まだ読んだことがない人も多いはずです。
そこで今回は、韓非子の名言をまとめてみました。
内容の要約にもなっているので、韓非子をざっくり理解するにはぴったりだと思います。
ビジネスリーダーを目指す人はぜひご覧ください!
そもそも「韓非子」とは?
韓非子(かんぴし)は、中国戦国時代の法家である韓非(かんぴ)の著書です。
いわゆる「君子論」を述べた本なのですが、貞観政要を始めとして、このような類はいくつも残されていますよね。

その中でも韓非子はとても有名な書物なので、ビジネスパーソンであれば必ず読んでおくべきでしょう。
韓非子(かんぴし)の名言集まとめ
知らずして言うは不智、知りながら言わざるは不忠。
訳)何も知らないにも関わらず発言するのは愚かである。知っていながら発言をしないのは職務に忠実ではない。
日本人は場の雰囲気を大切にするので、あまり積極的に発言したりしませんよね。
欧米ではそれを良しとしていないのはご存知の通りですが、何も知らないのに発言するのも考え物です。
良い会議にする秘訣とは、そこに参加した人たちが自分の専門外やよく知らない分野に対しては余計な発言をして会議を邪魔しないこと、そして自分が熟知してる内容については積極的に発言することです。
この2つの価値観がしっかり共有されている会議であれば、良い成果が出せるでしょう。
至言は耳に忤(さから)いて心に倒す。賢聖に非ざれば能く聴くこと莫し。
訳)正しい諫言ほど耳に痛く、腹立たしいものである。優れたリーダーでなければ、聞き入れる能力はないものである。
第三者からの忠告は、的を得ていれば得ているほどムカッときますよね。
つまり聞きたくない諫言ほど、正しい可能性が高いということです。
名君と呼ばれた人達は、臣下からの諫言を積極的に受け入れていました。
ビジネスリーダーを目指すのであれば、そのような姿勢が大切なのだと思います。
言有る者は自ら名を為し、事有る者は自ら形を為す。形名参同して、君は乃ち事無く、其の情に帰す。
訳)意見のあるものは自分から進んで意見を述べ、仕事をしようとするものも進んで実績を表す。そこでその実績と言論とを突き合わせて、一致するかどうかを調べるようにすれば、トップ自身は特別なことをしないでも任せていける。
韓非の思想を一言で言えば「形名参同」です。
- 形:行動
- 名:言動
- 参同:一致すること
つまり「形名参同」を正しく評価できる人がリーダーにふさわしいということです。
名君は賞をかりそめにすること無く、罰を赦す無し。
訳)優れたリーダーは、適当に賞を与えたり、罰を一旦下してから許したりするようなことはしない。
経営者は人間なので、どうしても人に優劣をつけてしまうはずです。
例えば親族には甘くなったり、可愛がっている部下は積極的に登用したくなりますよね。
しかしそうではなく、きちんと能力を見定めて、「徹底的に公正な評価をするべきだ」と韓非は語っています。
法を奉ずる者強ければ、則ち国強く、法を奉ずる者弱ければ、則ち国弱し。
訳)「ルール」をしっかりと厳格に運用するものがいる組織は強く、「ルール」をないがしろにするものがいる組織は弱い。
これは当たり前のことなのですが、会社においては「仕組み」もルールに該当します。
つまりルールがしっかりしている組織は、それだけ強い組織ということになります。
韓非子において「ルールの順守」というのは基本思想になるので理解しておきましょう!
明主の導りて其の臣を制する所は、二柄のみ。二柄とは刑と徳なり。
訳)優れたリーダーが組織に属するメンバーを使いこなすための基本は、2つの柄を持つことである。その2つの柄とは、刑と徳である。
柄とは、取っ手やハンドルのことです。
つまり組織をコントロールするために重要なポイントということです。
そして「刑と徳」とは、「飴と鞭」と同じ意味として使われています。
つまり「賞と罰」ということですね。
この2つを上手く使い分けることで、組織はコントロールできるそうです。
明主は法をして人を択ばして、自らを挙げざるなり。法をして功を量らしめて、自らを度らざるなり。
訳)優れたリーダーは「ルール」に基づいて人選を行い、自分の考えだけで人を登用しない。「ルール」で定められた通りに人の功績を決め、自分の考えだけで判断しない。
組織において明確な基準が定められていなかったり、機能していないと、リーダーが私利私欲に走る場合があります。
十分注意しましょう!
好みを去り悪みを去れば、群臣は素を見(あら)わすと。
訳)好き嫌いを隠せば、組織に属するメンバーの性格が自然と現れる。
人間は誰しも、他人から好かれようとしますよね。
ビジネスにおいてはそれを「ゴマすり」と呼んだりもしますが、本当に能力のある人を判別するのがリーダーの役割です。
邪な考えを持ったメンバーを選抜しないようにしましょう!
夫れ物は宜しき所あり、材は施す所有り。各々其の宜しきに拠る。故に上即ち無為なり。
訳)物には適材適所がある。それ相応の者をそれぞれ適所に置けば、トップは何もする必要がない。
組織のトップに立つような人間は、一般的に優れた才能を持っているので、だからこそ組織全体のマネジメントを任されているはずです。
しかもジェネラリストだと思うので、いわゆる平均点よりもやや上の能力を持ち合わせています。
そう考えた場合、自分よりも優れた能力を持っているプロフェッショナルであれば、仕事を任せやすいですよね。
基本的に組織は、そのような「一流のプロフェッショナルを寄せ集めて構成する」べきだと思います。
一家二貴ならば、事乃ち功無く、夫妻、政を持すれば、子は適従する無し。
訳)1つの家に2人の主人がいたら仕事はうまく運ばない。夫婦で家庭の実権を張り合えば、子供はどちらに従って良いかわからない。
これはつまり「船頭多くして船山に登る」ということだと思います。
船頭多くして船山に登る:指図する人が多過ぎるとかえって統率がとれず意に反した方向に物事が進んで行くことの意味。
指示命令系統が複数にならないように気をつけましょう。
人主に三守有り。
訳)組織のリーダーには守るべき3つのことがある。
守るべき3つのことは以下の通りです。
- 組織に属するメンバーの意見を人に漏らさないこと。
- そのメンバーの利害はリーダー自身が握ること。
- メンバーの生殺与奪の権利を守ること。
リーダーには様々な情報が集まってくると思いますが、その出所を喋ってはいけません。
そして組織に属するメンバーに懲罰を与える時、周りの状況を考えるのではなく、ルールにのっとって決めなければいけません。
さらに組織の人事権を経営トップが握っていなければ、不正な異動や解雇、権力乱用が横行するので、それを防げなくなります。
ここに記載されている「生殺与奪の権利」というのは、ビッグモーター問題で話題になりましたよね。
実は「生殺与奪の権利」というのは韓非子にも記されている言葉なので、組織運営においてこの表現自体を使うことに違和感を感じることはありませんし、そもそもこの表現を使える人は知識人だと思います。
ただあの組織で問題だったのは、社長である人物が生殺与奪権を掌握しておらず、現場の幹部にそれを与えてしまったことです。
現場の幹部がルールを無視して、独断と偏見で賞罰を与えていたので、それによって権力乱用が起こり、韓非子が懸念していた事態に陥ったわけです。
ビッグモーターという組織も、韓非子が提唱する3つをしっかり守ってさえいれば、組織は安泰だったでしょう。
人主の過ちは、己に臣に任じながら、又必ず反って其の任せざる場所の者とこれに備うるに在り。
訳)トップとしての過ちは、すでに仕事を組織に属するメンバーに任せておきながら、また他方では必ず任せていないメンバーに監視させるところにある。
仕事を人に任せると心配になりがちですが、決して監視するような真似はやめましょう。
もし他メンバーに監視を依頼した場合、その人は張り切って過失ばかりを発見しようとします。
その報告を鵜呑みにしてしまうと、ますますリーダーは疑心暗鬼になって、せっかく上手くいっていたプロジェクトもご破算となってしまいます。
そうではなく、適切なルールに基づいてコントロールすれば良いだけなのです。
治を知らざる者は必ず曰わく、古えを変えること無かれ、常に易うることなかれと。
訳)リーダーシップのない者は言う、古いことを変えてはいけない、慣れたことを改めてはいけないと。
一刀両断しますが、変化を嫌うリーダーはナンセンスです。
ビジネス環境は常に変化しているので、それに合わせて柔軟に変化していきましょう!
明主の道は、必ず公私の分を明らかにして、法制を明らかにして、私恩を去る。
訳)リーダーは必ず公私の区別をはっきりさせて、公的なルールに乗っ取り、プライベートな感情を捨て去るべきである。
この名言からわかる通り、韓非は仕組みでカバーすることを推奨していた人物です。
感情論は「机上の空論」と一刀両断しているので、このあたりには人間味がありませんが、それでもビジネスを仕組み化したい人には理解されるかもしれません。
人を溺らすには、一飲にして止めば、則ち溺るる者無し。其の休むを以てなり。これに乗じて以てこれを沈むるに如かず。
訳)人を溺れさすのに水を一杯飲ませて止めたら、誰も溺れるものはいない。途中でやめるからだ。勢いに乗じて沈めてしまうのが一番である。
かなり極論に聞こえますが、この言葉が伝えたいのは「始めたら最後までやり抜く」ということです。
徹底的にやり抜くからこそ、学びがあるのだと思います。
安危は是非に在りて、強弱に在らず。存亡は虚実に在りて、衆寡に在らず。
訳)組織の安定と危険とは、是非の基準が守られているかどうかによるのであって、メンバーの強弱によって決まるものではない。組織の存亡はその力が充実しているかいないかであって、メンバーの人数の多さで決まるものではない。
「数は力なり」という言葉がありますが、韓非は「法(ルール)」がきちんと守られていなければ、いくら数が多くても「烏合の衆」になってしまうと語っています。
強い組織にするためには「言行一致」が重要ということです。
明主の表は見易し、故に役立つ。
訳)優れたリーダーの立てるビジョンは分かりやすい、だから目標達成しやすい。
ビジネスしていると「ビジョン」という言葉を耳にしますよね。
しかしこれを言語化できる人は少ないと思います。
ビジョンを分かりやすく言語化しているのが、ソフトバンク創業者の孫正義なので、孫社長の名言集もご覧ください。
明主は人民の苦しむところを除きて、人主の楽しむ所を立つ。上下の利、これより長なるは莫し。
訳)優れたリーダーは、組織に属するメンバーたちの苦しみを取り除いてやり、リーダー自身も働くことが楽しくなるようにすれば良い。組織における上下の利益が一致した時の組織に勝るものはない。
これはつまり「楽しく働ける職場を作る」ということです。
当たり前の話ですが、仕事が楽しくなれば生産性も向上しますよね。
それが結果を出すコツだと韓非は語っています。
禍福は道法により生じて、愛悪より出でず。
訳)禍を受けるか祝福を受けるかは原理原則に基づいたルールによって決まるのであり、リーダーの個人的な好き嫌いで決まるものではない。
韓非の主張は一貫していて、「感情論ではなくルールに基づいた組織運営をするべき」ということです。
これは何事においても「自分の行動による結果に責任を持つ」ことに繋がるので、各個人に当事者意識が芽生えるそうです。
国は君の車なり。勢いは君の馬なり。
訳)組織というものはトップにとっての車であり、権勢は馬のようなものだ。
立派な組織があっても、リーダーシップがなければ、その組織(車)を導くことができません。
ビジネスリーダーには「リーダーシップ」と「マネジメント」が求められるのです。
下君は己の能力を尽くし、中君は人の力を尽くし、上君は人の智を尽くす。
訳)レベルの低いトップは自分の能力を発揮して、レベル中程度のトップは組織に属するメンバーの力を発揮させて、優れたトップはメンバーの智恵まで引き出す。
経営者にも「一流、二流、三流」があるということです。
一流のプロフェッショナル達が残した名言集もご覧ください。
まとめ
ここまで韓非子の名言集をご紹介してきました。
韓非は”老荘思想”に強く影響されているので、しばしば老子の言葉を引用しています。
つまり韓非子を理解するためには、老荘思想も学ばなければいけないということです。
老荘思想について知らない人は、下の記事もご覧ください。