ビジネスの現場では、
- バックマージン
- リベート
- キックバック
などの言葉が頻繁に使われています。
ビジネスパーソンであれば馴染み深いかも知れませんが、この違いを正しく理解できている人は決して多くありません。
そこで今回は、気になるバックマージンについて解説していきたいと思います。
賄賂との違いや、横領など違法行為になるケース、ならないケースについても触れていくので、会社員の人はぜひご覧ください。
目次
バックマージンとは?
企業活動は大きく分けて、
- 商材を販売する(=販売活動)
- サービスを導入する(=購買活動)
の二つに分けられると思います。
営業パーソンは毎日のように販売活動していると思いますが、中小企業のプレイングマネージャーであれば購買活動も兼務しているはずです。
そのような購買活動では、相手の営業担当者からバックマージンを提示されることが稀にあります。
バックマージンとはインセンティブとも呼ばれますが、取引したことに対する謝礼として支払われる金銭などのことを言います。
まずはこの辺りについて解説していきたいと思います。
バックマージンを渡す意味とは?
バックマージンを受け取ることができる人は、購買担当者であることがほとんどです。
企業の購買担当者はどんな人なのかと言うと、以下のような人達になります。
- 購買部の人
- 経営者(社長)
- 事業部の責任者
経営者(社長)や事業責任者はイメージしやすいと思いますが、購買部とは企業の備品などを購買する部署をいいます。
大手企業には購買部があるのですが、もし購買部がない場合は人事部や総務部が兼務していることが多いでしょう。
営業職の人はこのような決裁者とやり取りをするのですが、営業現場では相見積もりがコンペなどが当たり前になっています。
そのような熾烈な競争の中で、自分の会社を選んでもらうことは困難を極めます。
そんな時に便利なのがバックマージンなのです。
先ほども少し触れましたが、バックマージンとは「取引したことに対する謝礼」になります。
つまり「当社を選んでくれてありがとう!」という感謝の気持ちで提供する金銭などをいいます。
これを支払うと一体どのようなメリットがあるのでしょうか?
例えば、A社、B社、C社の3社が絡むコンペが行われたとします。
その時に、3社とも製品内容が似ていて、料金的にも大差がないというケースは度々あるはずです。
このような肉薄した戦いの場合、最後の決定打になり得るのがバックマージンなのです。
この中でA社だけが、購買担当者を接待(会食)に連れ出したとします。
その席で高級料理をご馳走したり、美味しいお酒を振る舞って、購買担当者を良い気持ちにさせた場合、「今後もこのような接待をしてくれるかも…」という思惑が働くので、コンペではA社が勝つ可能性が高くなるのです。
これは現金でも、美味しい料理をご馳走する接待でも、同じようにバックマージンとして分類されています。
値引き(割引)とは違うの?
「製品サービスを買ってもらったお礼として現金を渡す…」
これだけを聞くと「バックマージンは商品を値引きするのと何が違うのか?」という疑問が湧いてくるかも知れません。
確かに値引きとバックマージンは一見すると似ているのですが、根本的に利益を得られる「人」が違っています。
例えばA社の営業マンが100万円の発注をくれた謝礼として、購買担当者にバックマージン10万円を提示したとします。
この時にバックマージン10万円を支払うのはA社になります。
そして、その10万円を受け取るのは購買担当者です。
それを要約すると以下の通りになります。
支払う人:A社(=法人)
利益を得る人:購買担当者(=個人)
それでは次に値引き(割引)について考えていきたいと思います。
値引きの場合には、100万円の発注をくれた時に、その金額を10万円割引するという考え方になります。
なので、購買担当者には90万円の請求書が届くはずです。
これを要約すると以下の通りになります。
値引きする人:A社(=法人)
利益を得る人:購買担当者の所属会社(=法人)
つまり、バックマージンを支払う場合には、支払う人が「法人」で受け取る人は「個人」になるのに対して、値引きの場合には、支払う人が「法人」で受け取る人も「法人」になるのです。
よって、商品を値引きしてもらった場合には、値引き分が会社の利益になるようなイメージです。
バックマージンとキックバックの違い
営業活動ではバックマージンが活用されていますが、類似する言葉には下記のようなものがあります。
- リベート
- キックバック
これらの言葉に明確な違いがあるのかというと、実はあまりなく、リベートやキックバックはバックマージンと同じ意味合いになります。
つまりニュアンスの違いなので、どの言葉を使っても基本的にはOKだと思います。
「リベートを受け取った」と聞くと、何か不正をしているような悪いイメージを持つ人がいますが、リベートを受け取ること自体は合法的なので特に問題ありません。
それでは、なぜリベートに対してネガティブな印象がついているのでしょうか?
この辺りは次で解説していきたいと思います。
リベートは違法?賄賂との違い
「リベート」という言葉は、思ったよりもネガティブな印象で捉えられることが多いです。
その理由は、「賄賂」と混同しているためだと思われます。
「賄賂」の意味を辞書で調べると以下の通りになります。
職権を利用して特別の便宜を計ってもらうための、不正な贈物。そでの下。
この言葉の中で「職権を利用して特別の便宜を計ってもらう」という部分だけを切り取ってしまうと、リベートをもらうことと同じに見えてしまうのです。
しかし、リベートと賄賂には明らかな違いがあります。
リベート)取引に対する謝礼であり、販促行為
賄賂)謝礼を受け取れない政治家や公務員などが受け取る違法なリベート
政治家や公務員は、謝礼(リベート)を受け取ることが法律で禁止されているのをご存知でしょうか?
「贈賄罪(ぞうわいざい)」と「収賄罪(しゅうわいざい)」という言葉をテレビで聞いたことがある人は多いと思います。
まさにそれのことで、政治家や公務員に賄賂を渡す犯罪を「贈賄罪」と言って、賄賂を受け取ったり要求した政治家や公務員が「収賄罪」になるのです。
これらのことを総称して「賄賂罪」と言ったりします。
このように、リベートを受け取ること自体が犯罪になる職業があるので、全体的な空気感で「リベートは悪いこと」という印象になってしまったのだと考えられます。
しかし、ビジネスの現場ではリベートを渡すことが認められており、賄賂などとは違います。
あくまでもリベートとは、取引をしてもらったことに対する謝礼であり、販促行為としてみなされるのです。
つまり、決して違法行為では無いのです。
それに対して賄賂は通常の取引ではなく、違法な行為をした時に得られる報酬なので、もちろん賄賂がバレれば逮捕されることになります。
しかしそれは特定の職業の人が違法な行為をした場合に限定されるので、普通のサラリーマンがこのようなケースに当たることは稀だと思います。
リベートはお互いメリットの多い仕組みなので、活発な商取引のためには積極的に活用すべき仕組みだと言えます。
外部と取引する時に使えるリベートは、営業マンからすると「とても重要な販促ツール」になり得ます。
リベートは個人的な謝礼として渡しても問題がない為、購買担当者が意思決定する為の動機や材料になるのです。
この辺りについて、次で詳しく解説していきたいと思います。
バックマージンは営業現場で活用できる
バックマージン(リベート)が重宝されているのは、営業活動における販促ツールとしての効果が高いからです。
決裁者(購買担当者など)にキックバックすることを提案すれば、相手も購入しやすくなるので、商談がまとまりやすくなります。
しかし、やたらめったらキックバックすれば良いという話でもありません。
営業活動に活用する場合には、事前にキックバックする金額や条件を決めておくことが重要になります。
バックマージンの使い方
バックマージンの条件は、会社が損をしないラインで定める必要があります。
例えば、売価が100万円の商材だったとしても、粗利は30万円ということも決して珍しくありません。
そのようなケースで、粗利30万円のうち20万円をキックバックしていては、全く儲からないと思います。
なので、必ず儲けが出る金額をキックバックすることが絶対要件になります。
ここからは具体的な「バックマージンの使い方」について解説していきたいと思います。
まずバックマージンを支払うタイミングですが、これはマージンを支払う企業側が一方的に決めて構いません。
そのタイミングは以下のようなイメージになります。
- 決裁者と商談ができたタイミング
- 契約締結できたタイミング
- 入金が確認できたタイミング
このようなタイミングで「いくら支払うのか?」も支払う側の自由になります。
とはいっても、会計上問題になり得るので、キックバックするための契約締結が必要になります。
それは業務委託契約や代理店契約になると思います。
建前としては「キックバックを受け取る人(購買担当者)から、所属する会社を紹介してもらった」という感じにするのです。
その紹介してもらった所属企業とあなたが契約締結に至った場合、所定の金額をキックバックするのです。
このような仕組みは「紹介営業」と言われるスキームになります。
紹介営業は不動産業界や保険業界で良く活用されている仕組みなので、知っているビジネスパーソンは多いと思いますが、最近では「リファラル営業」とも呼ばれており、それを支援するためのプラットフォームも出てきています。
バックマージンを渡したら横領?違法?
ここまでバックマージンについて解説をしてきましたが、原則的にリベートを渡すことは何も問題ありません。
ただし、場合によっては横領として扱われたり、違法行為になるケースもあるので十分注意が必要です。
例えば、政治家や公務員など特定職業にキックバックすると「賄賂」に当たるケースもあります。
しかし、実はそれ以外にも違法行為に当たるケースがあるのです。
ここでは「どのようなケースが違法行為になってしまうのか?」について解説していきたいと思います。
違法になるケース
リベートには、賄賂の他にも違法行為になってしまうケースがあります。
それは、所属している会社に損害を与えるケースです。
そのような場合には、懲罰対象や損害賠償など非常に重い責任を問われることになるので、十分注意しなければいけません。
ここでは「所属している会社に損害を与えるケース」について、具体例を交えながらご紹介したいと思います。
例えば、あなたはA社に所属している購買担当者(=仕入担当者)だとします。
あるメーカーY社があなたのもとに営業にやってきて、100万円の製品を提案したとします。
その製品はとても魅力的だったので、購入するか悩んでいたタイミングで、営業担当者から「もし今契約していただけたら、あなたに10万円のリベートをお渡しします」と提示されたとします。
このリベートが決定打となり、あなたはY社の製品を購入することにしました。
その時に、本来100万円で購入する予定だった製品価格ではなく、自分のリベートを乗せた110万円で請求させた場合に問題が発生します。
この上乗せした10万円を「後でバックマージンとして受け取る」という場合には横領になる可能性が非常に高いです。
このような循環取引をすると、A社は本来100万円の支払いで済んだところを、110万円支払う羽目になったので、10万円の実損害(=本来は支払う必要がないコスト)が発生しています。
この10万円は購買担当者である「あなたが受け取るお金」と見なされるので、一般的な解釈としては「会社のお金を横領(又は詐欺)した」ことに当たるのです。
ニュースを見ていると会社員が横領したケースが度々報道されていますが、このような循環取引で捕まっているケースはとても多いです。
もちろん損害賠償請求の対象にもなるので、結局もらった金額以上を返さなくてはいけません。
上記のようなケースでは10万円を購入代金に上乗せするのではなく、販売した業者が自身の粗利を削ってキックバックすれば問題ないのです。
つまり、100万円の製品価格なのであれば、その金額を全うに請求して、利益の中からリベートを捻出してキックバックするのです。
普通の取引であれば問題になるケースは殆どありませんが、会社規定で「リベートの受け取りを禁止している」というケースもあるので、その辺りは注意が必要です。
とにかく所属している会社に損失を与えることは絶対にNGなので、トラブルが起きないように慎重に行動しましょう。
実際の逮捕事例を解説
ここでは実際に逮捕者が出た事例をご紹介しておきます。
この事件は2021年06月10日に報道された実際の事例です。
被害者となったのは、たこ焼き店「築地銀だこ」などを運営する上場企業の「株式会社ホットランド」です。
詐欺容疑で逮捕されたのは、ホットランド元社員のK容疑者と知人のI容疑者の2名です。
ニュース記事のURLはこちら:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021061000993&g=soc
詐欺容疑で逮捕されたホットランド元社員のK容疑者は、「築地銀だこ」の新規出店候補地を探す部署に在籍していたそうです。
報道によると、ホットランドには新規出店の候補地を担当部署に紹介して、実際にその場所への新規出店が決まればバックマージンがもらえる「土地紹介制度」という仕組みがあるそうです。
この仕組みを解説すると、まず紹介者であるI氏(=紹介者は誰でもOK)が新規出店に最適な土地をホットランドに紹介します。
その土地オーナーへの新規出店をホットランドの営業担当者が行います。
そして無事に新規出店となった場合、I氏には謝礼金(=リベート)が支払われるのです。
ちなみにこの仕組みは店舗型ビジネスをしている企業では一般的(=当たり前)な仕組みなので、この仕組み自体に違和感はなく、単なる販促行為だと言えます。
ここでキーマンとして出てくるのが、ホットランド元社員であるK容疑者の知人であるI容疑者です。
ホットランド元社員のK容疑者は、この土地紹介制度を悪用して「なんとか自分がリベートを受け取れないか?」と画策しました。
というのもホットランド社員は出店候補地を紹介しても、リベートが貰えなかったのです。
そこでK容疑者は、知人のI容疑者に声を掛けました。
自分(=K容疑者)が探した新規出店の候補地を、あなた(=I容疑者)が見つけたということにしてくれないか?
I容疑者はホットランドの部外者なので、もちろん土地紹介制度を活用すればキックバックが受け取れる立場にあります。
その結果、7件で1,100万円のバックマージンがホットランドからI容疑者に支払われましたが、実際にその土地を見つけたのは元社員のK容疑者なので、決してI容疑者が見つけた土地ではありませんでした。
そして支払われた1,100万円の9割を元社員のK容疑者、1割をI容疑者で分け合っていたそうです。
この事件は、一般的な販促活動である「土地紹介制度」が詐欺行為(刑事事件)に使われ、逮捕者まで出た典型的な違法行為です。
この事件のポイントも先ほど解説した通り、「所属している会社に損害を与えたか?」ということになります。
つまり本来必要のないバックマージンを支払うことは、「会社に損害を与える行為」とみなされるのです。
これは一般的な解釈で横領や詐欺行為に当たるので、十分注意しましょう。
バックマージンの相場
バックマージンを受け取る場合、「いくらもらえるのか?」ということは気になりますよね。
リベートの相場は特にありませんが、あくまでも目安となる金額くらいはあります。
話をわかりやすくするため、今回の前提としては「紹介営業」におけるバックマージンの相場に限定しておきますが、取引成功に対するお礼として支払われる紹介フィーの相場は、一般的に「取引額の10%~20%が目安」になります。
例えば、購買担当者が100万円の製品を購入した場合、そのバックマージンは10万円~20万円が目安ということになります。
もちろん業種業態によって変わりますが、キックバックの相場は10%前後になる傾向が多いようです。
そして、その金額はあくまでも1回きりのスポット(ショット)で、継続的なストック収入ではありません。
紹介フィーの金額は気になるところですが、「いくらにすべきか?」ということは特にルールがありません。
法的にキックバックの割合が決まっているわけではなく、取引相手の判断で金額が変動します。
なので、もしリベートの話になった場合には、とりあえずその金額を聞いてみてください。
相場は10%前後と言われていますが、取引相手やロットによっては大きく変動する余地があるので、色々と交渉してみることをお勧めします。