
アンカリング効果は日常的に使われていますが、実はビジネスの現場でも重宝されています。
そこで今回は、ビジネスマンが知っておくべき「アンカリング」について解説したいと思います。
目次
アンカリングの意味&定義とは?
ビジネスパーソンであれば、一度くらいは「アンカリング効果」という言葉を耳にしたことがあるはずです。
アンカリングとは、ある回答を求められた時に、それを判断する為の基準(基準値)を設けることを指します。
人間は情報が不十分な状態で判断を求められた場合、
- わずかな情報
- これまでの経験
- 提示された条件
などを総動員して、一生懸命判断しようとします。
つまり不確実性が高まる程に、物事の判断(良いor悪い、高いor安い etc.)は難しくなるということです。
このような不確実な局面でも判断できる基準とは、一体何なのでしょうか?
それは固定概念になるので、当然その後の行動にも大きな影響を及ぼしていきます。
このような判断基準になった事柄が”錨(いかり)”のように比喩されて、”アンカリング効果”と呼ばれるようになりました。
アンカリングの由来
アンカリングは英語では「anchoring」と書きます。
つまり”錨(いかり)”を意味する言葉(anchor)なのです。
船は錨を下ろすと港に固定されるので、当然流されることがなく、その場に留まった状態になります。
つまりアンカリングとは、あることに対する個人の判断力が固定されて、その基準からズレることが無い様子が「錨を下ろした船に似ている」為に名付けられました。
人間は知識や情報が乏しい中で判断基準に迷うと、最初に提示された情報&条件を判断の目安(アンカー)にしやすいのです。
アンカリングは心理学用語の一つとしても有名なのですが、時には「アンカー効果」と省略されることもあるので覚えておきましょう。
アンカリングは交渉(商談)に使える
アンカリングはその特性上、交渉事に使うこともできます。
ビジネスの現場では交渉を有利に進める為、度々アンカリングが取り入れられているのです。
具体的には、スーパーマーケットやショッピングモールなどの小売店が集客マーケティングに活用したり、事業会社が商品サービスを販売する時などに活用しています。
実はアンカリングを上手に活用すれば、来店したお客様の購買意欲を刺激したり、購買担当者の意思決定を促すことができるので、売上アップの要因にもなり得るのです。
そのため、アンカリングはビジネス戦略のひとつとして頻繁に活用されています。
プライベートでも活用できる
アンカリングはビジネスの現場だけでなく、プライベートの人付き合いでも活用することができます。
日常生活には様々なシチュエーションがありますが、その中で最も「アンカーリング効果が高い」と言われているのが”恋愛”の場面です。
「恋愛でアンカリング?」と疑問になるかもしれませんが、恋愛では好きな相手の好みや苦手なタイプを探って、信頼関係を築く為の努力が必要ですよね。
そのような恋愛では、過去に自分が経験した出来事などを参考にするケースが多いので、これまでの体験が良し悪しの判断基準(アンカー)になっています。
そのことを踏まえると、好きな相手と十分なコミュニケーションを取って、過去の恋愛体験を上手く聞き出すことが、恋愛を発展させる為にとても重要な役割をもってきます。
例えば、過去に粗暴な男性と付き合っていた女性にアプローチするのであれば、「気遣いできる」ことや「優しい」ことなどをアピールすれば好印象が得られるはずです。
相手の信頼を得ながらお互い価値観を少しづつ共有するやり方が、最も効果的なアプローチになると思います。
アンカリングのやり方
アンカリングは”認知バイアスの一種”なので、交渉などに取り入れる場合は「相手が状況判断するアンカーがどのように作られたのか?」という点をきちんと理解しておく必要があります。
アンカリングの要因とは、
- 最初の提示物
- 認識されやすい情報
- 単純化
- 過去の状態
など大きく分けて4つに分類できるため、アンカリングを実施する時にはこれらのポイントを押さえておくのがコツになります。
ここではこの4つについて、1つづつ解説していきたいと思います。
アンカリングのコツを解説!
「最初の提示物」とは、価値を固定化するために必要な情報になります。
これは必ずしも最初に認識されたものという訳ではなく、相手側がそれまで手に入れた情報の中で一番最初に「印象的な情報だ!」と感じたものを指します。
「認識されやすい情報」は相手にとって知名度が高く、普段から馴染みがある情報のことです。
これは相手が意識して取り入れた情報ではなく、何気なく普段から目にしている情報も含まれます。
例えば「カメラはキャノン」「ダイヤモンドは高価」などの情報をいいます。
「単純化」とは、すなわち分かりやすい情報です。
例えば「数値化する」「一言で表せる情報」など、相手が瞬時にイメージしやすい情報を指します。
「過去の状態」は相手のそれまでの経験や記憶の中にある情報のことです。
これは新しく提示する情報との比較だと考えて良いでしょう。
過去の成功体験や失敗体験もアンカーにすることはできますが、この4点を上手く活かすことでアンカリングの成功率は高まっていくはずです。
アンカリングは営業活動にも使える
先にも少し触れましたが、アンカリングは「営業で使える交渉テクニック」として知られています。
実際に「トップセールス」と呼ばれる営業パーソンは、アンカリングを活用して、お客様を上手にコントロールしています。
その結果、驚異的な営業成績を叩き出しているケースが少なくありません。
営業マンがアンカリングする場合には、”顧客にプラス評価してもらう為の価値基準”をアピールすることが大切になります。
それは些細な事でもOKなので、
- 待ち合わせに遅刻しない
- メールの返信が早い
- 言葉遣いが誠実
などでも充分です。
ビジネス面において時間を守ることや迅速な対応は信頼関係に繋がるので、アピールポイントとしては効果的なはずです。
次でアンカリングの実践テクニックを解説していきたいと思います。
アンカリングの実践テクニック
営業でアンカリングを使用する目的とは、もちろん受注(契約)を獲る為ですよね。
なので、アンカリングの実践テクニックという観点では、成果に繋がる方法が求められるはずです。
例えば、良く使われるアンカリングの手法は、価格提示についてです。
価格とは難しいもので、良く知られている商材の料金であればなんとなく相場を知っていますが、世界初の商材や、一般的ではない商材の平均相場なんて誰にもわかりませんよね。
例えば美術品や骨董品などはその代表格だと言えます。
まったく知らない新進気鋭アーティストの絵画を「この絵は1,000万円なんです!」と言われても、高いのか安いのか価格の妥当性が判断できませんよね?
なので料金感覚が不明確な商材ほど、アンカリングの効果は絶大だと言えます。
つまり、料金感覚が不明確な商材では、下のような二重価格にするとアンカリングと同時にお得感を演出できるということです。

このような表記は百貨店やスーパーマーケットで良く見かけますよね。
まさにこれがアンカーリングなのです。
このような表記にすることで、お客様には「だいたい5千円くらいの商品なんだなぁ…」という認知バイアスがかかります。
その判断基準を基にして、
- 買った方が良いのか?
- お得なのか?
- 他社製品と比べてどうなのか?
という決断作業へと入っていくのです。
つまり、人間はアンカーリングが無ければ、「購買の決断作業まで至ることがほぼ有り得ない」ということになります。
これは製品サービスのクロージングを仕事にしている営業パーソンにとっては、非常に重要なポイントですよね。
これを理解しているのと知らないのでは、営業実績に雲泥の差が出てくるはずです。
ただ、二重価格には厳格な規制がありますので、必ず事前に管轄省庁のホームページを確認するようにしてください。
高額商材も売りやすくなる
ここまではお得感を演出するためのアンカリングについて解説してきましたが、アンカリングは価格を高くするのにも活用できます。
例えば、清涼飲料水などは多くの人が参考価格を知っているため、価格アップが図りやすい商材と言われています。
清涼飲料水の平均価格は100円~150円くらいだと思いますが、ある付加価値をつけた飲料水を300円で料金設定すると、詳細説明をしなくても、なんとなく「特別な飲料水なんだろうなぁ」という印象を抱かせることができます。
つまり、これほど相場感が周知されている商材の場合には、安く見せるのではなく、高く見せた方がアンカリング効果が絶大だといえます。
このような例もありますので、自分の取り扱う商品には「どんなアンカリングが効果的なのか?」という点を確認した方が良いでしょう。
アンカリングの具体例を紹介!
身近な場面でアンカリングが頻繁に行われている場所は、スーパーマーケットが代表的だと思います。
スーパーマーケットでは定期的に卵や生鮮食品が特売の対象となり、手ごろな価格で買物をすることができますよね。
しかもスーパーマーケットには毎日のように通うので、消費者には自然と平均価格(相場)が刷り込まれていきます。
その一方で、販売している日用品の中には高額商品も少なくありませんし、特売商品と一緒にそれらを購入する人もいます。
このような環境は、とても効果的なアンカリングが実施できる現場だといえるでしょう。
先程もご説明したようにアンカリングは”価格の安さをアピール”するだけでなく、”高額商品をアピール”する時にも使用することができます。
このようにアンカリングは様々な交渉に役立つ認知バイアスなのです。
使い方次第では「営業のカンフル剤」になり得る施策なので、ぜひ積極的に活用してみましょう。
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