
俺のイタリアンは「飲食業界に革命をもたらした」といわれますが、その仕掛け人は中古本&CDチェーン『ブックオフ』を創業した坂本孝さんです。
ブックオフのビジネスモデルはとてもシンプルなので、たった一言で説明できるそうです。
定価1,000円の本を100円で仕入れて500円で販売する。
それで売れなければ翌月200円にする。
たったこれだけのビジネスモデルで、東証一部(現・東証プライム)上場まで果たしたのです。
ある意味ではビジネスの天才と言えますが、その当人が全く異なる飲食業に挑戦したことはとても興味深いですよね。
そこで今回は、大注目されている「俺のシリーズ」のビジネスモデルを考察してみたいと思います。
飲食業を経営している人はもちろんですが、ビジネスパーソン必見の内容なので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
坂本孝の経歴
坂本孝は1940年生まれ、山梨県甲府市出身の起業家です。
※さの編集長と同郷です。
1990年にブックオフ(現・ブックオフコーポレーション株式会社)を創業。
ブックオフは2004年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、2005年に東京証券取引所市場第一部へ鞍替えしました。
ビジネスが軌道に乗ったので、2007年にBOOK OFFの会長を辞任して、経営は別の人に任せることになったので、その時点で実業界からは身を引くつもりだったそうです。
しかし尊敬する京セラ創業者『稲盛和夫』がJAL(日本航空)の再建に携わるというニュースを見て、以前から考えていた飲食業へチャレンジすることを決めたのです。
稲盛和夫といえばアメーバ経営が有名ですよね。
アメーバ経営について知りたい人は下の記事をご確認ください。
飲食業に参入する際には色々なビジネスモデルを考えたそうですが、2011年に俺のイタリアンをオープンして、2012年に俺の株式会社を設立しました。
今では様々な「俺のシリーズ」を運営しています。
- 俺のイタリアン
- 俺のフレンチ
- 俺のBakery
- 俺の Grand Market
- 俺のスパニッシュ
- 俺の割烹
- 俺の天ぷらバル
- 俺のやきとり
- 俺の焼肉
- おでん俺のだし
- そば俺のだし
- 俺のEC
しかしここに至る道のりは決して平坦だったわけではなく、これまで12回ビジネスを起こした(俺のシリーズ含めず)そうですが、その勝率は2勝10敗だったそうです。
※ちなみに2勝した内訳は「中古ピアノの販売」と「BOOKOFF」だったそうです。
これほどの偉業を成し遂げた人でも、ビジネスで勝つことは難しいということですね。
俺のイタリアン&フレンチのビジネスモデルとは?
新業態に、立ち飲み居酒屋とミシュラン星付きシェフを合体させると決めた。
俺のイタリアンは2011年9月に東京の新橋駅にオープンしました。
『サラリーマンの街 新橋』という印象が強いかも知れませんが、出店した銀座8丁目の最寄り駅が新橋だっただけなので、実際には銀座へ出店したイメージですね。
そのコンセプトは、高級店で活躍してきた一流の料理人が料理を提供し、高級店の価格の1/2以下で提供するというものです。
使われる食材はどれも一級品で、原価率は実に60%を超えるそうです。
飲食店を経営している人にとっては非常識な数字なので「そんなので成功するわけがない」と思いますよね。
しかし回転率さえ上げれば原価率60%でも十分利益を出せて、事前シュミレーションでは原価率88%でも利益が出るという計算になったそうです。
つまり飲食店が儲かるポイントというのは粗利(売上-原価)ではなく、回転率(お客様の入れ替わり)ということになります。
原価率88%というのは約9割なので、飲食店が儲かるかどうかは原価率の問題ではないということが理解できますよね。
そもそも、なぜこのような発想を思いついたのかといえば、世の中で流行っている飲食業態が『立ち飲み居酒屋とミシュラン星付きレストラン』だったからです。
立ち飲み居酒屋は手軽なので、他の飲食店と比べて回転率が高いことが特徴的です。
サラリーマンが会社帰りに立ち寄ったりもするので、不景気にも強いという特徴もあります。
そしてミシュラン星付きの高級店は客単価を上げやすく、固定客もつきやすいので、経営が安定するのです。
その二つを合体させるという大胆な発想が『俺のイタリアン』というイノベーションを起こしたのです。
俺のイタリアン立ち上げ期
新業態でイメージした客層は、丸の内で働く30代の女性3人連れで、肉料理をガンガン食べて、白ワインと赤ワイン、ボトル一本ずつじゃぶじゃぶ飲んで、「明日も仕事頑張ろう」と思っていただける人達。
俺のイタリアンがターゲットにしたペルソナ(顧客イメージ)は、バリバリのキャリアウーマンです。
有名なユダヤの商法によると「女性×口」をターゲットにしたビジネスは当たると言われるので、まさにそのセオリー通りですよね。

マクドナルド創業者として有名な藤田田もユダヤの商法に則ってビジネスを成功させたと語っているので、詳しく知りたい人は下の記事をご覧ください。
そして「俺のイタリアン」というネーミングも戦略の一つだったと語っています。
イタリア料理店といえば、なんとなく敷居が高い気がして、ちょっと入りづらいですよね。
ローマ字の店名や横文字が使われていると覚えにくいですし、カリグラフィーはそもそも読めません…
新業態のコンセプトは『高級イタリアンの大衆化』だったので、もっと馴染みの良い名前が良いと思ったそうです。
その時に出てきたネーミングが「俺のイタリアン」だったのです。
このネーミングであれば何をウリにしてるのか一目でわかりますし、店主のこだわりも感じられますよね。
さらに泥臭さ(頑固おやじ感?)があるので、なんとなく敷居が低くなって、安っぽさも醸し出されています。
しかし店頭にはシェフの顔と経歴が書かれた綺麗な看板を掲げて、料金は格安でも高クオリティの料理を提供していることをアピールしたのです。
そして厨房ではイタリア語が飛び交う演出をして、まるで本場イタリアの高級レストランにいるような感覚も提供したのです。
俺のイタリアンをオープン!
驚いたのは口コミの凄さです。
人が人を呼んでくれたのです。
例えてみれば、ネズミ講が著しい速さで進んでいく感覚です。
俺のイタリアン新橋本店は、2011年9月21日にオープンしました。
16坪の小さいお店だったので、知人から「これなら月商の上限は350万円くらいだな…」と言われたそうです。
お店のオープン時には大々的なプロモーションをせず、いわゆる「サイレントオープン」だったのですが、徐々にお客様が増え始めたそうです。
その原動力になったのは口コミです。
ビジネスにおいて口コミの影響力はとてつもないので、絶対に口コミを有効活用するべきだと思います。
なぜ俺のイタリアンの口コミが走ったのかと言うと、その理由はとてもシンプルです。
その答えが知りたい人は下の記事をご覧ください。
俺のイタリアンが抱えた課題
一番の課題は、提供時間を早くするということでした。
飲食業界にイノベーションを起こした『俺のイタリアン』でしたが、それと同時に様々な課題点が出てきたそうです。
そもそも16坪という店舗面積の狭さが影響して、厨房はたった3坪という状態でしたが、そこに50人ぐらいのお客様から一気に注文が殺到するのです。
もちろん料理人(シェフ)も少ないので現場はパニックです。
材料をたくさん仕入れておいても、ストックしておく場所が少ないので、すぐにメニューが売り切れてしまうという状態も頻発しました。
その状態を改善するために、大量の仕込みを行なったそうです。
それによって調理時間の短縮につながり、提供時間を早くすることもできたそうです。
そしてもう一つ、作業動線を効率化したというのも効果があったと語っています。
3坪という厨房の中で、最も効率的に調理できる作業動線を考えて、調理器具などの置き場所を適時変えていったそうです。
そのような工夫が功を奏して、店舗面積16坪、厨房面積3坪という飲食店でも、月商1,900万円を達成したのです。
この時の利益はわかりませんが、恐らく経常利益で300万円ほどだったと想定しています。
俺のイタリアン&フレンチが成功した秘訣
3万円のフルコース料理を作っていたシェフに、「客単価3000円の料理を作ってください」とお願いして「はい」と言わせることにあります。
坂本孝曰く「料理は人が作るもの」なので、飲食店はとてもやりがいがあるそうです。
そして、PDCAが回しやすいことも特徴的だと語っています。
飲食店は改善した効果がすぐに現れるので、非常に現場に近いビジネスができるとも言っています。
しかし、とにかく苦労したのは一流の料理人を集めることだそうです。
意外なことに、俺の株式会社では料理人のヘッドハンティングを一切やっていないそうです。
人材紹介会社を通じてシェフを集めているそうですが、実は一流の料理人ほど不満を抱えているそうです。
というのも、一流の料理人は自分の腕や技術に自信があるそうですが、それを活かしきれていないと感じているようです。
一流レストランでは頻繁にメニューが変わるということもないので、自分のアイデアや技術を磨くことができないのです。
つまりイメージとしては単調な流れ作業のように日々の仕事をこなしているのです。
そこで気づいたのは『飲食店にとって大切なのは、料理人に裁量を与えること』だということです。
理想と現実のギャップを抱えている料理人たちに活躍する場を提供し、結果的にその恩恵を消費者に届けるというビジネススキームを作り上げたのです。
俺のイタリアン&フレンチが飲食ビジネスを覆した
私たちの目指す飲食業は、ハッピーな世の中をつくろうと提唱しているのです。
飲食業は歴史が古いビジネスなので、色々な商習慣や常識があったそうです。
例えば前述した通り、一流の料理人がロボット化している件もそうです。
せっかく一流レストランで修行したシェフでも、その腕や技術を活かせる場面が少なく、いわゆる「宝の持ち腐れ」状態になっていたのです。
しかも景気動向の影響を受けやすい業界なので、景気が悪くなるとすぐに経営者は原価を下げて、それによって給料も下がっていくというデフレスパイラルが起きやすい業界でもありました。
そのような常識を疑って、まずは原価率を上げて、一流の料理人がそこに付加価値を提供し、一般大衆の手の届く金額に値決めするという『競争優位性』を作り上げたのです。
普通の飲食店が真似できないようなビジネスモデルを構築したので、創業者の坂本孝は「俺のイタリアンは参入障壁が高いビジネスモデル」だと豪語しています。
確かに、これまでと真逆の行動を取ることは、飲食店経営者にとって勇気のいる決断だと思います。
そのようなリスクを犯す覚悟はないはず(現状維持でもOK)なので、ほとんどの飲食店は追随できませんよね。
結果的に俺のイタリアン&フレンチが独り勝ちすることになるのです。
飲食店経営とは?
「飲食店とおできは大きくなると潰れる」という定説がありますが、これは真っ赤なウソです。
坂本孝曰く「飲食店が大きくなった場合、経営力やマネジメント力が求められるので、それに対応できずに潰れるお店が出てくるのが実態だ」と語っています。
飲食業界は歴史が古いので、個人的にも間違った商習慣が多いと思っています。
- 10年経たないと寿司を握らせない
- お客様の私語を禁止する
- お客様を平気で待たせる
これはつまり、外部環境が変化しているのに、その環境の変化に対応せず、旧態依然の経営している飲食店が多いということです。
これはあるある話ですが「美味しい料理を提供すればお客様が来る」と勘違いしている飲食店経営者がいますよね。
でも決してそんなことはありません。
美味しい料理を提供するというのは『セールス』なので、それだけでは繁盛店になる要素が足りないのです。
つまり『マーケティング』ができていないということです。
お店にお客様がたくさん集客(マーケティング)できてこそ、初めて美味しい料理が提供(セールス)できるのです。
そう考えた場合、「セールスマーケティング」という言葉はあながち間違っていないということになります。
これから飲食店経営に参入する人や、独立開業を目指す人はぜひ参考にしてください。
まとめ
俺のイタリアン&フレンチが飲食業界に革命を起こしたことは間違いありません。
たった16坪の店舗で月1,900万円を稼ぐ、そのような経営ができている飲食店は少ないはずです。
しかも再現性があるので、どんどん店舗数を拡大しており、フランチャイズ展開もしているそうです。
この記事を作成した2022年11月現在では上場していませんが、恐らく近いうちに『俺の株式会社』は株式上場することでしょう。
名経営者からは学ぶことが多いので、ぜひリーダーの名言集も参考にしてください!