サンクコスト効果は人間の判断能力を鈍らせます。
これはとても恐ろしい効果だと感じる一方で、うまく使えばビジネス転用できるものなのです。
そこで今回は、サンクコスト効果の意味や使い方について解説していきます。
目次
サンクコスト効果の意味とは?
サンクコスト効果とは、過去に投資した資金や人的リソースが既に回収不可能な状態なのに、さらに投資を継続したり、人的リソースを投入し続けてしまう心理効果のことを言います。
英語表記では「sunk cost(=沈んだ費用)」という意味になり、埋没費用とも呼ばれています。
サンクコスト効果が発揮されると、すでに支払ったコストに気をとられ、合理的な判断ができなくなってしまうのです。
人間には誰しも「損したくない」という気持ちがあるので、もうダメだとわかっていても「もしかしたら…」という淡い期待のもと、前進し続けてしまうことがあるのです。
これはとても恐ろしい状態なので、一度ハマってしまうと蟻地獄のように抜け出せなくなります。
そんなことを企業が繰り返していると、いづれその会社は倒産する可能性すら出てきます。
「コンコルド効果」とも呼ばれている
コンコルドとは、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機のことです。
1962年に共同開発を開始して、莫大な費用が投資された結果、1976年に商業就航が開始されました。
しかし、色々な事情があり2003年10月に商業運航が終了となっています。
結局、就航路線はごく一部に限られてしまい、採算が合わなかったのです。
膨大な開発費を国家補助で賄いましたが、それでもまったく儲からず、巨額欠損を抱えながら、運航を続けていたのが実態です。
このように就航開始してから「事業としての採算性が合わない」ことは明確だったにも関わらず、初期の開発コスト(投資額)が大きすぎて引くに引けなくなったのです。
この事例を引用して、サンクコスト効果は「コンコルド効果」とも呼ばれています。
プロスペクト理論との違いは?
プロスペクト理論をご存知でしょうか?
プロスペクト理論はサンクコスト効果と混同されることが多いので、ここでその違いを解説しておきたいと思います。
プロスペクト理論とは、「損失回避の法則」とも呼ばれていて、人間本来に備わっている損失回避の行動原理を指します。
つまり「損したくない!」という気持ちを刺激するような行動心理学の理論なのです。
プロスペクト理論をビジネスに活用した典型例が宝くじです。
宝くじは1枚300円で販売されていますが、当選番号はランダムなので誰が当たるかわかりません。
もちろん自分で番号を指定することもできません。
そのような状況下で、1等に当選する確率は2,000万分の1とも言われています。
これだけ低い当選確率のものを、人は「もしかしたら当たるかも…」と思い込んで購入するのです。
ここでプロスペクト理論が発動されます。
宝くじを購入する心理を正確に言い表すと「もしかしたら当たるかもしれないので、購入しないと損するかもしれない」と思い込んでしまうのです。
このように不確実な事象にもかかわらず「損失を回避したい!」と思い込むことで、不合理な行動を起こすのが人間という生き物です。
それを研究しているのが行動経済学と呼ばれる学問です。
もし行動経済学に興味があれば下の書籍をご覧ください。
ソシャゲやギャンブルが代表的
サンクコスト効果をビジネス転用している代表例はソーシャルゲームやギャンブルだと思います。
ソーシャルゲームにはガチャと呼ばれる仕組みが存在していて、それ相応の課金額になるような仕掛けが施されています。
例えば毎月3万円ガチャに課金したゲームがあったとして、それを1年間続けた場合、累計で36万円の課金額になります。
もし1年後にそのゲームに飽きたとしても、すでに36万円も課金しているので、「今までつぎ込んだお金を無駄にするのはもったいない…」と感じて、そのままダラダラと課金し続けるケースが多いのです。
ギャンブルにもこれと同じような傾向があります。
バカラやポーカーなどのギャンブルで10万円負けた場合、そこでやめることは単純に「10万円損した」という印象になるのです。
- もしかしたら10万円を取り返せるかも…
- 10万円は無理でも半分の5万円なら回収できるかも…
- 次で勝てば100万円になるかも…
このような不確実なことを考えてしまうのです。
これはまさにサンクコスト効果が発動されている状態なので、決して合理的な判断ができているとは言えません。
他にも、パチンコ、ホスト、アイドルの推しなどでもサンクコスト効果は散見されます。
どれも一度手を出すとなかなか抜け出せなくなるのが特徴的で、自分にとって都合の良い理由を付けてしまうのです。
サンクコスト効果は恋愛でも発揮される
不確実性の高いものといえば恋愛でしょう。
恋愛は人対人の話なので、最も不確実性の高い事象だと思われますが、この不確実性の高い恋愛でもサンクコスト効果は発揮されています。
例えば、3年間付き合った恋人がいますが、その人とは結婚まで考えられなかったとします。
しかし、人間はなかなかその人との別れを決断できないのです。
なぜかと言うと、これまで付き合った3年間が全て無駄になったような気がするからです。
つまり、もし別れた場合、これまで付き合ってきた3年間を「損失」とみなしてしまうのです。
もしくは、別れた後にその人以上の相手が見つからなかった場合、それを機会損失と捉えてしまうのです。
そうなるのが怖いので、将来性がないにも関わらずダラダラと付き合い続けてしまいます。
サンクコスト効果から脱出するコツ
サンクコスト効果は一度ハマってしまうと抜け出せない蟻地獄のような存在ですが、もちろん脱出するコツは存在します。
それは自分自身を客観的に見て、サンクコスト効果にはまっているかどうかを確認するのです。
この記事を読んだ人は、「サンクコスト効果とは何なのか?」がきちんと理解できたと思います。
まずはこのように「サンクコスト効果」自体を理解するのが大切なのです。
サンクコスト効果というものが存在していることを知れば、自分がそれに陥っているかどうかは俯瞰的に判断できるはずです。
そして感情論抜きにして、冷静に客観的な判断を下すのです。
これができるようになれば、サンクコスト効果の罠にはまることは無いでしょう。
サンクコスト効果の事例紹介
サンクコスト効果を上手に活用すれば、ビジネスは飛躍的に伸びていきます。
ここでは様々な事例を紹介していくので、あなたのビジネスモデルに使える場合はぜひ積極的に活用してみましょう。
アパレルのサンクコスト効果
例えばあなたは5万円の本革ジャケットを持っているとします。
その革ジャケットはとてもシルエットが綺麗で気に入っているのですが、重くてなかなか着る機会がありません。
全く来ないシーズンは、一年に一回も着る機会がないほどです。
しかし革製品はメンテナンスが大変なので、梅雨シーズンにはカビが生えたりします。
その結果、全く着てないのにクリーニング代だけかかるなんてこともあります。
このような衣服であれば処分するのが最適解だと思われますが、サンクコスト効果が発揮されるのでなかなか処分することができません。
断捨離をする場合、一年に一回も使わないものは「自分にとって必要ないもの」と判断されるケースが多いです。
このようなアパレルはタンスの中にたくさん埋もれていると思います。
それをニーズ喚起して2次流通として活用すれば、大きなビジネスチャンスになるかもしれません。
または衣服の保管ビジネスを立ち上げれば、一定のニーズがあるかも知れません。
会員ランクのサンクコスト効果
会員ランクとして有名なものは楽天会員だと思います。
楽天会員には「シルバー会員~ダイヤモンド会員」まで、購入金額に応じて色々なランク付けがされています。
もちろん会員ランクが高ければ特典が付与されて、いろいろな優遇を受けることができます。
なので一度得た会員特典を失うことは、なんか損したように感じますよね?
ここにサンクコスト効果が仕込まれています。
購入金額が少なくなれば当然会員ランクは下がってしまうので、サンクコスト効果特有の損失回避が働き、無駄な買い物をしてまで会員ランクをキープしようとするのです。
このような心理効果は全ての会員ビジネスに共通しています。
応用しやすいはずなので、会員ビジネスをしている場合にはぜひ取り入れてみましょう。
定期購読のサンクコスト効果
あなたはディアゴスティーニをご存知でしょうか?
ディアゴスティーニとは、付録付きの雑誌を発行しているイタリアの出版社です。
一冊あたりの料金は1,500円から2,000円程度と高額な雑誌ですが、初回のみ500円程度に抑えることがビジネスモデルの肝になっています。
ディアゴスティーニは初回だけ安くなっているので、ついつい興味本位で買ってしまう人が多いようです。
例えば「アメリカン・カーコレクション」と題した雑誌を発行して、その雑誌の中に毎回1台だけミニチュアカーを付録として入れておきます。
そのカーコレクションが全部で20種類あった場合、最初の1台だけを試しに買った人は、他のコレクションも揃えないと損したような気分になるのです。
その結果、料金が高くなった高額雑誌を継続的に買い続けてしまう不合理な行動を起こすのです。
これはペットボトル飲料の付録にも応用されています。
アニメキャラクターとコラボしたアイテムをペットボトル飲料の付録としてネックにかけた場合、それを一つでも購入した人は「全10種類が揃うまで買い続ける」というような不合理な行動をとったりします。
これはコレクターの収集癖のように思われますが、実はサンクコスト効果が働いているのです。
長期優遇制度のサンクコスト効果
長期優遇制度とは、長く利用する毎に割引特典を付与するようなやり方を言います。
長期優遇制度は携帯電話などに使われています。
例えば、1年間利用すると5%割引、2年間利用すると8%割引…のような形で、5年間利用した人には最大20%割引を提供するようなイメージです。
5年間利用していて最大割引を受けているユーザーは、なかなか解約しないですよね。
なぜかと言うと、解約すると割引特典を放棄してしまうので、感覚的に「損した!」という気持ちになるのです。
これはまさにサンクコスト効果が効いている状態だと思います。
他にも株主優待が代表的だと思います。
株主優待には長期優遇制度というのが設けられており、長い期間同じ株式を保有し続けた人には特典が与えられるケースがあります。
例えば、保有期間1年以上2年未満の人にはクオカード500円分、保有期間2年以上3年未満の人にはクオカード1,000円分…このようなイメージで最大2,000円分まで増えたりします。
先ほどと同じく、この株式を売却してしまうと長期優遇特典も放棄することになるので、感覚的に「損した!」と思ってしまうのです。
長期優遇制度はストックビジネスをやっている場合、どのようなビジネスモデルにも応用できるはずです。
まとめ
サンクコスト効果は無意識のうちに発揮される心理効果です。
企業においてはサービスの解約を抑止したり、ユーザーの囲い込みを図れる優れたテクニックだと思います。
まだサンクコスト効果をビジネス活用できていない場合には、積極的に取り入れるようにしましょう。