これまで両親はよく妹に腹を立てることがあった。
妹を役立たずの小娘ぐらいに思っていたからである。
しかし今では妹の仕事を心からありがたがっているということは、折々の両親の話からグレゴールにもわかった。
グレゴールが虫になってから、食事など日常の世話をしていたのは妹でした。
これは皮肉な話ですが、グレゴールが虫になったことで、他の家族は仲良くなったのです。
天井にへばりついているのは気持ちが良かった。
グレゴールは虫なので、天井にへばりつくことができます。
天井にへばりついていれば、楽に息ができて、とても大きな幸福感を味わうことができるそうです。
地面と対比した天井は、「人目につかない場所=一人で自由になれる場所」という意味だと思います。
壁や天井へ逃げたりすると父親はそれをことさらの悪意と取りかねなかったので、グレゴールも今のところは床の上にいたわけである。
父親に追いかけられたグレゴールは、文字通り”床の上”を這い回りました。
床の上を這い回るという表現は、”最も格下の人”に使う表現だと思います。
この表現を使いたかったので、カフカは主人公であるグレゴールを「虫」に変身させたのかもしれません。
その時、彼のすぐ脇に何かが飛んできて、彼の前を転がった。
林檎であった。
父親は虫であるグレゴールに対して、林檎を投げつけます。
その様子を「父親は爆撃の決意を固めていた」とカフカは表現しています。
そのうちの一つがグレゴールに当たり、致命傷となる傷を負ったのです。
もう潮時だわ。
私、このけだものの前でお兄さんの名なんか口にしたくないの。
ですからただこういうの、私たちは”これ”を振り離す算段をつけなくちゃだめです。
”これ”とは、虫になったグレゴールのことです。
一生懸命世話をしてきた妹が、グレゴールのことを見限った瞬間でした。
一体どうして家の中のこんな永久の苦しみに辛抱できて。
私だってもうそんな辛抱できないわ。
虫となったグレゴールが家の中にいるということが、どれだけ家族を苦しめているか伝わるセリフだと思います。
グレゴールが部屋に入るや否や、大急ぎでドアが締められ、硬く閂(かんぬき)がかけられ閉鎖された。
家族は、グレゴールという存在に嫌気が差し、排除する動きを取り出します。
その結果、ついにグレゴールは、自室に閉じ込められてしまいました。
自分が消えてなくならなければならないということに対する彼自身の意見は、妹の似たような意見よりもひょっとするともっともっと強いものだったのだ。
これは致命傷となった傷が原因で、瀕死の状態になったグレゴールが考えていたことです。
「自分が消える(死ぬ)ことで、家族が幸せになった」という不条理を受け入れた瞬間でした。
親子3人は今日という日を休息と散策に使おうと決議した。
グレゴールが死んだ後、ザムザ夫婦とグレゴールの妹は、仕事を休んで散歩へ出掛けます。
父親は「過去は過去さ。」と言って、グレゴールの一件を忘れようとしたのです。
よく考えてみれば一家の将来もそう悪いものではないということが判明した。
「グレゴール・ザムザが虫に変身した」という呪いに取り憑かれていた一家は、とても憂鬱な気分になっていました。
しかしそこから解放され、前向きに生きる勇気を手に入れたのです。
「虫」とは何なのか?
カフカは虫のことを以下のように描写しています。
- アーチのように膨らんだ褐色の腹
- 腹の上には横に何本かの筋がついている
- たくさんの足がついているが、ひどく細い
この”虫”には諸説あるのですが、一般的には「ムカデ」のような虫だと言われています。
「なぜ虫になったのか?」という答えは明示されていないので、読者は自分なりに解釈していいのですが、一つヒントとなり得るのは、カフカが扉絵について言及した時のエピソードです。
「変身」の扉絵を書く場合、普通の人は「虫」の絵を描こうとしますが、カフカは「それだけは駄目です。それだけは良くありません。」と猛反対しています。
逆に理想としているのは「グレゴールの両親と会社上司(支配人)が閉じたドアの前にいるところ」や「両親と妹が明るい部屋にいて、暗い隣室へのドアが少し開いているところ」と語っています。
この言葉が意味しているのは「明暗のコントラスト」です。
名著と呼ばれるカフカの「変身」を紐解くヒントになるかもしれないので、ぜひ覚えておきましょう!